OJT

コールセンターの研修が終わると、いよいよOJTだ。
先輩社員とのロールプレイングは、OJTというよりは研修なのかもしれないが
研修生同士でのロールプレイングとは違い、ビシバシ駄目出しされる。
先輩がお客様役で電話をかけてくるのだが、最初から早口で聞き取りにくかったり
電話番号やお客様番号も区切って言ってくれなかったり、意地悪なのかと思った。

こちらが聞き取れずに
「すみません、もう一度お願いいたします。」
というと、わざとらしくため息をついたり、イヤそうな感じを出す。

実際のお客様もこんな感じなのか?
だったら嫌だなぁ。。。

早口で言われると、パソコンへの入力も早くしないといけない。
タイプミスや変換ミスで
「あっ!」
と言ってしまうと

「何ですか?」
とすかさず指摘される。

焦って、緊張して、ミスの連続だった。
こんな調子じゃ、いつまでたってもデビューできそうにない。

同期入社の人たちは、どんどんデビューしていく。
若い人順か?
残っているのは、うーん、やっぱり見た目年齢40歳以上かしら?
歳の順だったら、私は最後でも構わないけど。

コールセンターの仕事は、研修途中で辞めてしまう人も多いって聞いたけど
今のところ辞めた人はいない。
もしかしたら、私が辞める人なのかもしれない。クビになる人かもしれない。

先輩社員の攻撃は、日を追うごとにエスカレートしていった。
スクリプト通りに対応しろと言いながら、スクリプト通りに言ってくれない。
実際のお客様を想定したら、スクリプト通りにはいかないかもしれないけど
いきなり名前と住所と商品名を言い出して、こちらが話しかけるスキを与えない。
お客様が話をしているときはさえぎってはいけないから、相手が黙るのを待つしかない。

名前も住所も商品名も聞き返すと怒られる。
「さっき言ったでしょ!?聞いてなかったの!?」

頭が混乱して、ストレスがたまり、このままでは鬱になってしまいそうだった。

そんな地獄の特訓もついに終わりを迎えた。
デビューすることになったのだ。

デビューといっても、お客様との会話は全てモニタリング&録音されていて
会話が終わると駄目だしの連続だった。

お客様の話を聞いていない。〇〇と言われたのにスルーしている。
エゴエになってない。
抑揚がない。棒読み。
語尾を伸ばさないように。

一度にたくさん言われても、何から気を付けていいのか分からず
緊張の連続で声が裏返ることもあった。

休む暇もない。
受信可のボタンを押せば、すぐに次の入電音が鳴る。
耳もおかしくなりそうだった。

社会復帰なんて無理かもしれない。
電話を受けるだけだから大丈夫だと思っていたのに
精神的ダメージが大きすぎる。
もう何が辛いのか、何で出来ないのか考えるのも嫌だった。

嫌なことを我慢するのが仕事なのか?
ただただ我慢して電話を取ればいいのか?
いったい何を我慢しているのか?
座り仕事だから楽だとか、きれいなオフィスとか、そんなことどうでもよくない?

目肩腰はもちろんのこと、全身筋肉痛になった。
とくに首がひどい。
パソコンの画面に目を近づけすぎていた。
顎を突き出すような姿勢で体への負担は大きかったと思う。
ずっと緊張しているから体にも余計な力が入りまくっていたのだろう。

精神的ダメージだけでなく肉体的なダメージも相当なものだった。

ブラインドタッチが出来るから楽勝なんて、考えが甘かった。
プリントされたものを見ながら入力するのと、人の声を聞きながら入力するのは
全く別のことだった。電話の声は思ったより聞き取りにくい。
名前の漢字や住所の漢字も、知らない漢字を入力するのに手間取った。
聞いただけではよく分からない漢字が多かった。

デビューというのは独り立ちってことで、先輩社員がつきっきりではなくなる。
毎回ダメ出しされるのも辛いが、完全に独り立ちして大丈夫だろうかという不安もあった。
保留にしてすぐ先輩社員に聞くということができなくなるから。

同期の中では最後だったけど、ついにデビューする時がきた。