研修

コールセンターの研修期間は1週間だった。
面接で週3日程度働きたいと伝えたが、最初の1週間だけは研修のため毎日出勤するよう言われた。
朝9時から午後6時までのフルタイム8時間労働なんて耐えられるのかと不安だったが
研修は思ったよりも楽だった。

研修室で講師の講義を受ける。
なんだか学生に戻ったみたいで、ちょっとうれしい。
突然当てられて発表するなんてこともなく穏やかだった。
外の世界に出ただけで今までとは全く違う。

1日中家に引きこもり、家族以外の誰とも話をしない日々。
もう何十年もそんな生活をしていたのがウソのようだった。
何もかもが新鮮だった。
若い人たちと一緒に行動できるのが楽しかった。
図々しくも、自分も若返ったような気がした。

お昼休みになると、ロールプレイングのペアになった者同士、
一緒に休憩室でお弁当を食べた。
なんとなく研修生同士で同じテーブルにつき、和気あいあいとおしゃべりする。
50才のオバサンになって、こんな女子グループの一員になれるなんて思わなかった。

初対面の人間同士で仲良くなれたのは、自分のことを積極的に話す人がいたからだと思う。
そういえば、募集要項に「人と話すのが好きな人」ってのがあったな。
そういう人たちの集まりなのかもしれない。
私はどちらかといえば、人と話すのは苦手な方だ。仲間内でもほとんど聞き役だった。

中山さんは見た目年齢10代で、学生さんかと思っていたら3人の子持ちママさんで驚いた。
お子さんを保育園に預けて毎日出勤されている。
コールセンターの経験者で、エヴァンスお客様センターは他のコールセンターに比べて
いい感じだと言っていた。他社はもっと厳しかったらしい。

彼女にロールプレイングの相手をしてもらった時は、あまりにも上手だったので
ものすごく緊張してしまった。
中山さんは、そんな私のペースに合わせて話してくれて、さすがプロだと思った。
ロールプレイングで上手な人はどんどん本番デビューしていき、中山さんは
研修3日目くらいでもうOJTに入っていた。

若いのにすごいなー。
仕事も家庭も両立していて感心した。
と同時にまた自分と比べてしまって、自分を卑下してしまって落ち込む。
こんなことではいかん。
他人は他人。自分は自分。

藤田さんは、高校を中退してアルバイトでお金を貯め、セブ島に語学留学していたそうだ。
コールセンターで働いてお金を貯めたら、今度は違う国へ行きたいと言っていた。
行動力があって逞しい。
若いっていいな。何でもできる。
怖いもの知らずかもしれないけど、若いうちに出来ることは何でもやっておいた方がいいよ。

若くて元気な人たちから体験談を聞くと、自分の世界に閉じこもっていたのがバカらしく思えてきた。
たった一度就職に失敗したくらいで何十年もくよくよしていたなんて。
コールセンターに同期で入った人たちは転職経験3回以上なんてザラだった。
アルバイトの掛け持ち、ダブルワークもよく聞く。
世の中の人たちは、こんなに働いていたのか!
かなりの難関資格を取得したのに、自分に合わないからって全く違う業界へ転職したツワモノもいた。

今までこんな話を聞く機会がなかった。
コールセンターの研修そのものより、研修生の人生を語る会に出席できたことの方が意義深い。

研修から半年が経った。

中山さんは、いつの間にかいなくなっていた。
コールセンターのオペレーターとしての実力は際立っていたのに。
やはり、子どもさんが熱を出したとかで休んだり早退することが多かったせいか?
子どもがいても働きやすい、女性が働きやすい、休みをとりやすいって求人広告には書いてあったのにな。
彼女がコールセンターを転々としていたのも長期契約にはならなかったってことだろう。

藤田さんは、同期で一番の出世頭となった。すでにASV(アシスタントスーパーバイザー)として
大活躍だ。学歴不問は本当だった。

私は、辞めずに、クビにもならずに働き続けているだけすごいと思う。